(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『エイリアン コヴェナント』から7年、『エイリアン』シリーズの最新作『エイリアン ロムルス』が9月16日、ついに日本公開を果たしました。
第一作を手がけたリドリー・スコットが製作に名を連ねるなど、公開前から日本でも大きな話題を集めた本作。果たしてその前評判通りの「度肝を抜かれる」作品であるのか…?さまざまな論争も予感させる作品であります。
【概要】
(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
1979年のSFホラー映画『エイリアン』のエピソードを基に描いた続編的物語。前作の顛末から回収されたエイリアンの恐怖に遭遇した若者たちの生き残りを賭けた戦いの姿を描きます。
作品を手がけたのは『ドント・ブリーズ』シリーズ、『死霊のはらわた』(2013年)、『悪魔のいけにえ レザーフェイス・リターンズ』(2022年、Netflix)のフェデ・アルバレス。製作に第一作を手がけたリドリー・スコットが名を連ねるほか、同じく第一作で製作に名を上げていたウォルター・ヒルが名を連ねています。
キャストには『プリシラ』のケイリー・スピーニー、『ライ・レーン』のデビッド・ジョンソン、『もうひとりのゾーイ』のアーチー・ルノー、『マダム・ウェブ』のイザベラ・メルセドら若手実力派が出そろっています。
2024年製作/119分/PG12/アメリカ
原題:Alien: Romulus
日本公開日:2024年6月6日
【監督・共同脚本】
フェデ・アルバレス
【共同脚本】
ロド・サヤゲス
【出演】
ケイリー・スピーニー、デビッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルセド、スパイク・ファーンほか
【あらすじ】
ウェイランド・ユタニ社の非情な扱いにより、劣悪な環境にある植民惑星ジャクソンで人生の行き場を失った6人の若者たちは、ある日近隣宇宙に廃墟と化した宇宙ステーション「ロムルス」があることを発見します。
ジャクソンから脱出し、新たな人生を目指すためにコールドスリープ装置が不可欠と考え、彼らはその宇宙ステーションにそのシステムがあると考え、ステーションに生きる希望を求めて出向きます。
しかしそこで彼らを待ち受けていたのは、正体不明の生命体・エイリアン。逃げ場のない宇宙空間で、次々と襲い来るエイリアンに追い詰められ、一人また一人と命を落として6人でしたが……。
【『エイリアン ロムルス』の感想・評価】
1.シリーズにおけるジャンル作品性、ホラー要素の終焉的位置にある物語
(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
二作目以降、作品を手がけた監督の特徴によりエイリアンにまつわるさまざまな側面が描かれたこのシリーズ。そして今回改めて作り上げられたこの作品ですが、その総括的な印象としてはいろんな意味で「このシリーズを『まとめあげた』というところに留まっている」、という印象があります。その意味で全く新しい物語を期待してしまうと、肩透かしを食らうかもしれません。
当初本作の製作が決まった際に、リドリー・スコットはこの作品が第一作のイメージを踏襲するという方針に対し非常に好意的な印象を寄せていたというニュースが流れていました。
ところが本作は、どちらかというと第一~四作、そして『プロメテウス』『エイリアン コヴェナント』といった一連の作品のオマージュをかなり多めにちりばめた、という印象があります。
本作のトリビア的オマージュに関してはさまざまなSNSなどで明かされていますが、大きなイメージとしては作品のカラーイメージが物語の展開としてさまざまに変わっている印象です。スコットが手がけた第一作はどちらかというと寒色、ブルーからダークな黒を基調とした色合いのイメージが強いですが、本作は二作目、三作目の暖色、橙色のイメージで作られたシーンも多く存在します。そのため作品全編を通して見ると「スコット的イメージ」を期待すると若干違和感をおぼえる可能性はあります。
本作のメインキャラクターである「ゼノモーフ」の全体像が結構しっかりと見えてしまうシーンもあるところは、恐らく第一作のポリシーから逸脱してしまうポイントであります。これらのポイントに対して、スコットはどのような所感を受けているのか、非常に興味深いところでもあります。
2.シリーズを成熟させ「ホラー」という固定観念から脱却させたチャレンジ
(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ジャンル映画としての完成度、クオリティーはかなり高いものであるという評価はできるでしょう。しかし続編シリーズモノの厳しい運命でもありますが、エイリアン、ゼノモーフという生物の正体がわりに明確になっている上での物語となっていることもあり、ホラーならではの「相手の正体が分からないものであるがゆえの恐怖」という点に関してはかなり弱くなっており、『エイリアンシリーズ』ならではの「ホラー作品」を期待すると期待を裏切られた気持ちになるかもしれません。
しかし見方を変えれば『エイリアン』シリーズはホラーというジャンルでの存在感は若干薄くなった印象はあるものの、世の人々に対し社会的にもさまざまな観点を提供できる作品へと成熟した、と見ることもできるでしょう。
本作においても「ホラーではない部分」にどのような特質を持つか、そのポイントは重要な要素であるといえ、隠された社会的メッセージも感じられます。
最も強く見えてくるのは「日本的企業体質への批判的意見」。もともとこのシリーズでは、エイリアンという存在をどうして手に入れ、地球に持ち帰ろうとするウェイランド・ユタニ社を「悪者」として描きシリーズが構成されてきました。
特に第三作の『エイリアン3』で描かれた囚人惑星フィオリーナでは、漢字で描かれたタラップの標識などアジア的なイメージが要所でちりばめられており、この「アジア的部分」に対する批判性、つまり「ユタニ」というポジションに対しての力の強さをイメージさせていました。
本作の冒頭では、植民惑星ジャクソンで人生に絶望する若者たちの、普段のエピソードが描かれていましたが、そこには第一作で主人公リプリーたちがこの遠い旅路についたその経緯を想像させるとともに、日本企業の悪いイメージ、「企業が社員たちを食い物にする」といったある意味「社畜」的なイメージが見えてきます。
世界から見た日本企業のイメージとして、古くは「愛社精神」という面、つまり社員が生活の中心としてあらゆる側面から企業とのつながりを持つという印象がありました。「プライベートまでも会社に捧げ、身を粉にして働く」というそのスタイルは、日本人の勤勉さという印象を決定づける一方で、近年の「ブラック企業」という会社としてあるべきでない姿に重なる印象もあります。こうした「悪しき体質をもつ企業」の印象を、このパートではなんとなく日本の企業イメージとして暗に描いているという解釈も見えてきます。
また、本作の物語は第一作でリプリーが最後に宇宙に放ったゼノモーフを繭、化石的なビジュアルである残骸のようなものと化した形で宇宙ステーション・ロムルスが回収したというエピソードよりつながっていきます。
このゼノモーフの経緯に対し「宇宙に放てば、恐らく人類の脅威は免れるだろう、と思われたが、これは単に飢えや急激な温度変化で絶滅するようなものではなかった」というその驚くべき特徴も、本作では語られます。
この特徴は、どこか日本で現在問われている問題にどこか重なるイメージもあります。原子力発電所の核燃料廃棄物です。東日本大震災後、日本政府は福島第一原発の処理水海洋放出を決定していますが、果たしてこの処理水は本当に安全なのかという議論は未だ続けられていますが、この処理水とゼノモーフの脅威は、どこかイメージがダブって見えるところであります。日本文化の一つの傾向として「垂れ流し」という性質は古くから語られている特質でありますが、ゼノモーフというモチーフはこの「垂れ流す」という行為に対する批判のようにも見えます。
また「ウェイランド・ユタニ」という社名は日米の合資会社的なイメージですが、これは近年の日本製鉄によるUSスチール買収という問題に対してのイメージと、なんとなく重なるところでもあります。
これらあくまで想像、印象の域を脱しないものではありますが、どこかアメリカという国から見た日本企業への批判、危惧的な要素も見えてくるところであり、さまざまな考えを想起させられるところでもあります。
Commentaires