(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
今回紹介する映画は、『アス』『ゲット・アウト』で見せた独特の個性・世界観で大きな注目を浴びたジョーダン・ピール監督の最新作『NOPE/ノープ』。
ホラーというジャンルに独自のアプローチで挑んだピール監督。血しぶきなどのグロテスクな表現はほどほどに、背筋がゾクッとするような感覚をもたらすそのアイデアは、今多くの注目を集めており、次回作にも期待が集まっています。
【概要】
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とある田舎町の空にある日突然現れた不気味な飛行物体をめぐって、その怪現象解明のために撮影に挑む兄妹がたどる運命を描いたホラー作品。
「ゲット・アウト」でジョーダン・ピール監督とタッグを組んだダニエル・カルーヤが主演を務めます。そしてその主人公の妹役を『ハスラーズ』のキキ・パーマーが共演。
他にもドラマ『ウォーキング・デッド』のスティーブン・ユァンらが名を連ねています。
2022年製作/131分/G/アメリカ
原題:Nope
日本公開日:2022年8月26日
【監督・製作・脚本】
ジョーダン・ピール
【出演】
ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、ブランドン・ペレア、マイケル・ウィンコット、スティーブン・ユァン、キース・デビッドほか
【あらすじ】
田舎町で広大な敷地の牧場を経営し、生計を立てているヘイウッド家。家業を継ぐべく、毎日父との仕事に勤しむ長男のOJでしたが、一方で家業をサボって町に繰り出す妹エメラルドにはうんざりしていました。
そしてある日、いつもの通り牧場の仕事をしていたOJは突然空から異物が降り注いでくるを目撃します。その現象が止んだかと思うと、直前まで会話していた父親が息絶えていました。落下物により命を落としたのです。
一方OJJは、その不可解な死の直前に雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目撃しており、父が亡くなった数日後にも同じように空になにかが飛び回る様子を目の当たりにしていました。
「その飛行物体の存在を収めた動画を撮影すればネットでバズり一儲けできるはずだ」そう考えた兄妹は、飛行物体の撮影に挑みますが……。
【『NOPE/ノープ』の感想・評価】
1.「なにかわからないものがもたらす恐怖」コンテンポラリー・ホラーの傾向を踏襲
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突如として人前に現れた飛行物体、それはいったい何者なのか?
結果から言うと、本作でその正体はわかりません。このポイントは、ある意味近年のホラーの特質を示しているようであります。
古典的なホラーでは、まずはグロテスクなモンスターや霊体などのある程度明確な要因が見えるものがほとんどです。しかし前回レビューをおこなった『スナッチャーズ・フィーバー』やジョーダン・ピール作品である『アス』、そして本作『NOPE/ノープ』など、最後までその実態を示さない「恐怖」を描いた作品は近年多く存在しています。
これは一つの傾向的な流れともいえるでしょう。例えばホラー・ジャンルの金字塔ともいえる「ゾンビ」関連の作品は、今やホラーというジャンルを超えコメディーやアクション、はたまた「人生を見つめ直すきっかけとなる」ドラマ的な作品も多く排出されています。
(もっとも、近代ゾンビ映画の創始者ともいえるジョージ・A・ロメロの『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、公開当時でこそホラー映画の絶対的な存在でありましたが、近年はさまざまな見方で論じられており、一概にホラーと決めつけるのも難しいような気がしますが…)
その意味で、人間は「なにか正体のわからないもの」が怖い、という原点的なコンセプトを打ち立てた作品が多くあり、本作もその1本であるといえるでしょう。
そして本作の「恐怖」。いわゆる謎の飛行物体と呼ばれるものでありますが、ここにユニークな性質をうまく作り上げているところにポイントがあります。
「空飛ぶ円盤」といえば、まさに円盤でありますが、果たして「それは本当にいつまでも円盤なのか?」、また「この円盤はどうやって人に恐怖をもたらすのか」といった課題に独特のアイデアを駆使しています。
また、一方でスティーヴン・ユァン演じる人物ジュープが過去に遭遇した子供番組の悲劇「ブルーノ事件」とこの飛行物体との対峙など、それぞれの展開の伏線が非常にうまく絡み合い、物語の厚みを程よく作り出しているところにも注目であります。
2.
作品を手がけたジョーダン・ピール監督ですが、もともとスパイク・リー監督作品の製作を務めていたり、ニア・ダコスタの『キャンディマン』の共同脚本とプロデュースを手掛け、黒人女性監督が作り上げた映画としては初めて興行収入1位を獲得した作品に関わったり、という人物。その意味では非常に「黒人社会」の描写に関して深い視点を持った製作者であります。
ちなみに映画製作に携わる前にはコメディアンとして活動していた時期もあり、その意味では社会的な観点にも独特の視点を持たれているものと想定されます。
本作の前に手がけた『ゲット・アウト』はまさに「肌の色」の違いに言及したスリラーでした。また「アス」も直接的に言及したポイントはありませんでしたが、メインキャストとなった四人家族と、謎の人物たちに殺される隣人の「黒人家族と白人家族」という対比は非常に印象的でありました。
本作もメインキャストとなるダニエル・カルーヤ、キキ・パーマーの二人が黒人であることより、ピール監督の一貫したテーマへの言及がうかがえる作品であるといえるでしょう。
注目はスティーブン・ユァンの存在。本作では白人キャストがそれほど目立ったところがなく、この三人の行動がメインとなる物語でありますが、苦しい牧場経営に四苦八苦する兄妹とわりに羽振りがよいアジア系男性という構成は、黒人社会の見え方としてまた新たな視点を提起しているようでもあります。
そしてユァン演じるジュープ、カルーヤ、パーマーが演じる兄妹それぞれの運命がどこに落ち着くのか、という展開も、なにか社会に向けた痛烈なメッセージを描いているようです。
一方で注目は、カルーヤ演じるOJの表情。『ゲット・アウト』でもそうでしたが、あまり感情をあらわにしないのが特徴的でもあり、敢えて演技プラン的な意向としてそのポリシーを貫いているところには、まさに物語で描こうとするテーマに、非常にうまくからんでいるようにも見えるでしょう。
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