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執筆者の写真黒野でみを

【映画レビュー】『スナッチャーズ・フィーバー』監督のクレバーさが光るショッキング・ホラー

更新日:9月3日


(C)2014 Northeast Films Inc. 「豚のマスクをかぶった少年」「どこか不気味な雰囲気を醸す住民たち」、そして思わずドキッとする「笑顔」を見せる人物。


POVによるファウンド・フッテージ作品は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)、『パラノーマルアクティブティ』以降続々と発表されましたが、本作はその中において、低予算作品をにおわせながらもなかなかに手の込んだショッキング映像が効果的に取り込まれており、思わず席を立ってしまいそうなドキドキ感を味わうことができる作品であります。


【概要】

(C)2014 Northeast Films Inc.


恐ろしい「何か」に侵食された町に足を踏み入れた若者たちが体験する恐怖を、緊迫感たっぷりのPOV映像で描いたファウンドフッテージ・スリラー。

作品を手がけたのは『ハロウィン 悪魔のウイルス』などのジェイ・ダール。作品はカナダのアトランティック映画祭で最優秀監督賞をはじめ四冠を獲得しました。


2014年製作/95分/G/カナダ

原題:There Are Monsters

日本公開日:2016年1月23日


【監督・製作・脚本】

ジェイ・ダール


【出演】

クリスティン・ランジール、ガイ・ジャーメイン、マシュー・エイミオット、ジェイソン・デイリーほか


【あらすじ】

とある田舎町へ、映画製作のための取材にやってきた映画学科の学生たち4人。

現地に到着し早速カメラを回しはじめる彼らでしたが、立ち寄ったコンビニの店員らはやたらと笑顔を見せたり、どこか奥の部屋へ誘おうとしたりと、どこか様子がおかしく、不審な空気を漂わせています。

やがて学生たちは、街の住民たちの振る舞いから、「何か」が人間に成り代わり世界を乗っ取ろうとしていることに気づいていくのでした。


【『スナッチャーズ・フィーバー』の感想・評価


1.シンプルながら効果的な恐怖要素

(C)2014 Northeast Films Inc.


本作の「怖い」要素として「笑う」ということ、そして「人知れず広がる脅威」という二つのポイントをうまく踏襲しこの作品を構築しています。


この二つのポイントはシンプルではありますが、恐怖を表現するのに非常に効果的なアイテムとして機能しています。


「笑う」という行為は当人の意思とは無関係に、何かによって自身を奪われたことを示す一つのしるしとして存在しています。「笑う」という行為が、普通に考えればある意味幸せの象徴であるのに対し、当人の絶望的な人生を示している、その両極的なコントラストを示していることにも注目です。


「人知れず広がる脅威」、ここでは人間という存在が徐々に乗っ取られていくというテーマは、わりにホラーでは多く扱われているテーマ。


例えば1956年に発表されたSFホラー『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』より、そのリメイクである1978年の映画『SF/ボディ・スナッチャー』、そして以後そのフォロワー的な作品が数多く発表されています。


本作もその流れを踏襲しているようにも見え、先述の「笑う」ことの恐怖と掛け合わせて恐ろしさを倍増させているという風に見ることができるでしょう。


『Halloween Party』(2019年)


また、本作の後に作られた映画『Halloween Party(邦題:『ハロウィン 悪魔のウィルス』)』にも見られる傾向でありますが、恐怖を感じさせる間合いの取り方も絶妙


序盤で主人公たちは、目の前に現れる不可解な出来事に不安な表情を見せ、物語が展開していくうちにその思いを募らせていきます。


そしてクライマックスに従い畳みかけるようにショッキングな映像がドン!と突然登場。映像の作り方もさることながら、タイミングの取り方が非常に秀逸という印象であります。


2.ジェイ・ダール監督ならではの映像観、世界観

ジェイ・ダール監督は本作で音楽、脚本、製作とマルチな役割として携わっています。作品としてはいわゆるPOV的なリアル画像を効果的に使用したものでありますが、非常に表情の捉え方がうまく、低予算であることをにおわせながらも非常にクオリティーの高い映像を実現しています。


ダール監督は2008年に本作と同名のショートフィルム(『There Are Monsters』)を発表しています。



ちなみに2009年のインタビューでダール監督は、本作を長編化した作品をすでに製作進行していたことを明かしており、この作品で見られるビジュアル的な恐怖感などにある程度の確信を持っていたことが想像されるでしょう。



もともとはコメディーを多く手がけてきたダール監督。強く影響を受けた映画監督としてはスタンリー・キューブリックを挙げており、ジャンルという括りに囚われない、独特の世界観が特徴的ともいえるでしょう。


新たにホラーを手がける際には、伝統的なグロテスク描写よりもっとモダンな作風が期待できるようでもあります。


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